函館を駆け抜けて半世紀 市電旧型車両終着の日

  春は出会いと別れの季節。今年の函館市電もその例外では     お別れイベントを予告する車内の中吊り
  なく、LRVらっくる2号機の誕生によって、実に半世紀以上
  にも渡る活躍を続けてきた旧型車2両が引退することになっ
  た。

  これまでであれば、こうした旧型車両はいつの間にかひっ
  そりと引退してしまうのが普通だったが、LRV導入など近年、     引退直前、函館駅前では両車輌の共演も見られた
  積極姿勢に転じた函館市電の変化はここにも及んだ。
  今回は約1ヶ月も前から引退予告の装飾がなされ、市民参加
  の「お別れ会」とさよなら運行が実施されることになったの
  だ。

  今回引退となるのは711号と1006号。このうち711号は当時の      旧国鉄が用意した車体を用いる711号    
  国鉄五稜郭工場によって更新された箱型の車体を持つ、「北
  海道の国電」?とでも言えそうな存在で、昨年は映画「わた
  し出すわ」号としても活躍した
  (詳しくはブログ10月29日付記事参照)。

  もう一つの1006号は誕生後、東京都電として高度成長華やか     引退間近でも輝きを失わない1006号
  なりし東京の街を約15年間走り続けた後、遥か北の地函館へ
  と渡り、21世紀の今日まで活躍してきた旧都電車両最後の生
  き残り。番号読みでファンからは「センロク」と呼ばれ、昨
  夏からは都電当時の懐かしの塗装をまとい、絶大な人気を誇       
  っていた。
                                     車体横にも引退予告の広告板が
  長い冬も押し迫った3月28日、お別れ会が開催された駒場車
  庫には両車両との別れを惜しむ、たくさんのファンや市民の
  姿があった。

  誰もが過ぎ行く刻を一秒たりとも無駄にはしまいと、両車両
  を見て、触れて、いたわり、何かを感じ取ろうとする熱気で      お別れ会には多数のファンが詰め掛けた
  あふれている。

  それは長年、函館の欠かせない生活風景の一部としてあり続
  けた両車両への感謝の気持ちの表れであり、多くの市民にと
  って心の主役的存在であったことを物語る光景であった。                  

  車内はもちろんのこと、展示中は運転台も自由に開放され、         今は無き環状線の文字が残る711号の行先表示
  人波が絶えなかった。また、両車両とも2回ずつ記念運行の時
  間が 設定され、会場で記念グッズを購入した参加者に限って、
  無料で試乗することができた。もちろんグッズ販売も大盛況
  である。

  終了間際に友人が許可を得て、711号の行先表示を動かすと、
  そこには「環状線」の文字が。今、北陸の富山市で環状新路
  線が話題を集めているが、かつては函館にも存在していたの       「普段着の」最終電車内
  だ。果たしてLRVとなって環状線が帰ってくる日は来るのだ
  ろうか。

  そして3月31日。彼らが歩み続けてきた長い旅路に、終止符が
  打たれる日がとうとうやってきた。雲の間からどうにか差す
  朝陽の中、まず711号が出発。女性の運転士さんが大役を務め、
  乗り込むと記念証が一人一人に手渡されて、いつものように      最後の折り返しを前にした711号
  坦々と走り始めた。

  車内は騒々しいわけでも、寂しげなわけでもなく、とにかく
  静か。2、3人立客がいる程度で、普段の様子と驚くほど変わら
  ない。言われなければ、さよなら運行だとわからないほどで
  ある。

  JRのさよなら運行のような、熱狂と混乱などとは無縁のまま、
  711号は函館どっく前で折り返し、ラストコースへ。本当にこ    配布された両車両のさよなら乗車証明書
  れでもう会えないのかと、信じられない気分になる。とにかく
  走りに元気があり、車内もきれいなのだ。「生涯現役」の言葉
  どおりに、場車庫着。名残を惜しむ間もなく、リレーするよう
  に、今度は「センロク」の最終運行が始まる。

  今度はファンの数が車内外ともに増えた。都電の生き残りとあ         みんなが大きくなった時、この電車のことをどう思い出すのだろう
  って、本州方面からの遠征組も。それでも大混雑には至らない。
  またも記念証が配られ、一人一人手にする。

  さすがに711号に比べて車体の傷みは隠せない。それでもこの穏
  やかな車内の雰囲気が人気の秘密なのだろう。いったいこの空間
  をこれまで、どれほどの人たちが共有したのだろうか。 幾千・・・      半世紀以上もの歴史を刻んできた車内
  幾億・・・? 途方も無く長い 時間と思いが、この中には詰ま
  っている。最後のひと時をくつろぎ、時には目を閉じながら過
  ごす。

  折り返し点の谷地頭へ。函館山の麓に広がる急坂にもこれで別れ
  を告げる。魂があるかのような「ブォーン」という音を上げて、        かつての活躍を伝える写真の上には今も都電の表記が
  登りきった。

  二度と来ることのない道を一歩、一歩踏みしめるように走り、つ
  いに駒場車庫へ。するとセンロクと運転士さんの前に初老の男性
  が歩み寄った。手には花束。この方は約40年前、センロクの導入
  によって引退した、300型車両の最終電車を運転された方で
  あった。               大勢の市民に囲まれて最後の折り返し

  言葉はいらない。道を究めた男同士の固い握手が、目の前でしっ
  かりと交わされた。居合わせたファンや市民から自然と暖かい拍
  手が沸き起こった。

  今後、711号は同型車両の部品供給役となり、1006号は譲渡先を
  捜すことになっている。2両は引退してしまったが、函館には半
  世紀を越えた電車がまだまだ走っている。         道を究めた男同士が万感の思いを胸に手を握る

  皆様もぜひ一度、その歴史に触れてみていただきたい。

  
  

※補足  駒場車庫では711号到着時にも花束贈呈が行われました。筆者は撮影できませんでしたが、「函館鉄道写真館」の管理人を務める友人が撮影した画像がありますので、ご覧ください。当ブログにリンクもしていただいています。
  
函館鉄道写真館 (ページ内の検索で711号と入力)
http://blogs.yahoo.co.jp/x103nanodayo/folder/52169.html

タグ:函館 市電

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