並行在来線問題で函館市が踏まえるべきこと

  北海道新幹線の工事がこのところ、加速している。
  これまでの車両基地や、海峡線の在来線区間に新幹線用
  のレールを1本追加する3線軌化工事に加えて、この7月6日
  には函館周辺では初めてとなる、高架橋工事が着工された。

  正に新幹線という存在が現実のものとして、私たちの目の        函館-新函館間の経営分離反対を訴える署名案内
  前にその姿を現そうとしている。
  しかし、それを迎える地元函館の状況はここに来て、大き
  く揺れている。発端は去る3月に、JR北海道が函館開業に
  続いて新幹線が札幌まで延伸された場合、函館線の函館-
  小樽間を経営分離すると表明したからだ。

  それは開業時、新幹線に代替されることになるであろう、
  特急北斗の走行路線のみならず、新幹線新函館(渡島大野)
  駅から現函館駅までを結ぶアクセス列車までJR経営の手を
  離れ、経営の見通しが立たなければ最悪の場合、函館市内         現在の函館駅 果たして札幌開業後の運命は…
  から鉄道路線そのものが消滅しかねないことを意味してい
  た。

  これではいくら新幹線で所要時間が短縮されても、函館市
  内まで利用客を安定的に連れてくることすら困難となる。
  この事態に函館市の各方面から激しい反発の声が挙がった。

  函館市長は経営分離が見直されなければ、新幹線の着工条
  件となっている沿線自治体の同意はしないことを表明。市
  議会は全会一致で経営分離への反対を決議した。地元経済
  界もこれに歩調を合わせたことで、市としての姿勢はこれ
  までにない強固なものとなっている。今月中旬からは10万
  人以上を目標に、市内全域での署名活動も行われる。

  これに対し、現時点でJRは改めて経営分離の意向を表明。
  道庁の対応もはっきりしておらず、今後の推移は予断を許
  さない。

  自身は札幌への新幹線延伸に基本的には賛成である。その
  理由は、よく言われるCO2減や冬季間運行の安定性などに
  加えて、航空燃料に使われる石油資源の枯渇懸念が大きな
  要因である。

  バイオ燃料などの開発も行われてはいるが、将来的に石油
  に代わって現在の航空需要に対応でき、現行の価格水準も
  維持できるだけの、代替エネルギーが誕生する見通しが、
  どこにも無いからだ。現状のままでは北海道は今の社会シ
  ステムを持続するのが次第に困難となっていくだろう。

  そうであるなら、長距離輸送だけでなく、近郊輸送も同様
  に現行のクルマ依存から脱した省エネルギー化が必要とな
  るはずで、在来鉄道の存在が軽視されてよいはずはない。
  函館市の姿勢はこうした観点からも評価できるものなのだ
  が、これから行動していくにあたっては、大切な視点が不
  足しているようにも感じられる。

  中でも不満なのは、経営分離に反対する区間が函館-新函館
  間だけだという点だ。札幌より先に新函館開業時に分離さ
  れる、江差線の五稜郭-木古内間や、残る小樽までの路線の
  問題は取り残された形となっている。これでは道民全体か
  ら見て、地元の利益だけを重視していると誤解される可能
  性もあるだろう。

  中でも木古内-長万部間は札幌への貨物輸送の動脈であり、
  経営が不安定になるだけでなく、駒ケ岳の火山災害などの
  対策・復旧費用すら満足に確保できない事態も懸念される。
  もちろん通勤・通学輸送や観光輸送も重要だ。

  そもそも現状の鉄道財源は、道路のそれと比べて、ケタが
  二つ違うと言われるほど大幅に少なく、とりわけ地方の鉄
  道ではインフラ・車両の老朽化など、並行在来線以外の地
  域でも多くの課題を抱えている。

  本来、函館市はこの機会を捉えて、こうした広い意味での
  地方鉄道・交通全体を維持していくための枠組みの構築や、
  財源の確立を、国・道や世論に問うていくべきではないだ
  ろうか。そうすることで、より多くの地域・市民から賛同
  が得られるに違いない。

  函館市はもともと、市電の運営を通じて、安定した公共交
  通確保や環境型交通の重要性を、道内のどこよりも理解し
  ているはずである。この経験がこうした問題を解決に導く
  大きな力となるよう願っている。


  ※ 写真は順次、追加予定です
  

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